2011年12月02日

コーヒーの種子と発芽を考える@ 

コーヒー豆はコーヒーの種子(たね)だ、というと、
「そんなことは小学生だって知ってるよ、当たり前だ」
と怒られてしまうでしょうが、
私たちが日常的に食べている食材では、
米、トウモロコシ、大豆、小豆、ゴマなども種子ですし、
パン、うどん、そば、中華麺、パスタや
豆腐、味噌、醤油、食用油、
おかき、クッキーなども種子からつくられたものですから
ヒトは種子に古来から深く依存して生きているのです。

そういう意味で、コーヒーの種子と、それに発芽について
あらためて感慨深く、敬意を表して
想いついたことを綴ってみました。


植物は花が咲いて、実が実って、種子ができ、
その種子を蒔くと芽が出て次の世代の植物ができますが、
「最適な温度と空気と水」
の絶妙なバランスがそろうと、
ヒトの母体の胎児のように、
種子の中で次世代の植物の赤ちゃんが発育します。

人間の赤ちゃんは、出産後母乳やミルク、オムツにお風呂などと
24時間世話を焼いてくれる人が必ずそばに居ますが、
植物の赤ちゃん(発芽)は生まれた時から独りきりです。
育っていくために必要なものはすべて自分で調達し、
やるべきことはすべて自身でやらなければなりません。
さらに植物は歩いて移動できないのですから、
種子の発芽のタイミングは、
きわめて慎重に発芽環境を検討することになるのです。

必要なものはすべて揃っているのか、
健全に発育できうる環境かどうかを充分に吟味したうえで、
「よし、これなら大丈夫、安心して発芽しよう」
と決断して発芽に踏み切るのです。
人間にはとてもマネの出来る芸当ではありません。

次世代の赤ちゃんが芽を出し、
自分で光合成をすることが出来るようになるまでの
成長に必要な栄養分が種子に入っています。
コーヒーの種子の中の大半を占める硬内胚乳は
セルロース(炭水化物)、タンパク質(粒状アリューロン)、糖などのほか、
ビタミン、ミネラル、鉄なども含まれているのです。

コーヒーの種子は、
水分や水溶性の養分、酵素の量などは少なく(水分20%未満)、
代謝・生合成・細胞分裂といった生命活動は
ふつうは停止に近い休眠状態にあります。
そのため、ふつうなら
耐えられないような環境下(寒冷、高温、乾燥、暗黒など)でも
種子は生き続けることが出来るし、
長い寿命を維持することが出来るわけです。

極端な例では、昭和26年に大賀一郎教授が
弥生時代の遺跡から発掘された蓮(ハス)の種子を発芽させています。
卑弥呼が死んだ時期は
弥生時代から古墳時代への移行期といわれていますから、
少なくとも
「1800年以上昔の種子でも発芽した」
ということになります。
スコーピオン・キングが復活する「ハムナプトラ」という映画のようですね。
といってもコーヒーの種子では数十年も持たないんじゃないでしょうか。
私は植物学者ではないのではっきりしたことは言えませんが、
コーヒーの種子を、どんなに大切に保存していても、
年々発芽率が落ちることは確かですから。
長い年月が経過したコーヒーの種子は
やがて脳死状態のようになって発芽しなくなるような気がします。
「なんだ、コーヒーの種子ってそんなに弱いの?」
というより、
それだけデリケートだと解釈してほしいところです。

また、種子のまわりの種皮は、
動物や昆虫に食べられたり、菌類や細菌に侵されないように、
また衝撃や圧力で傷つかないように、
さまざまな危険から種子の中身を守っています。
コーヒーの種子ではシルバースキンという薄くて頑強な皮が貼り付き、
さらにその外側をパーチメントが覆って、
種子をガードしているのです。
そのため、種皮を脱穀して、丸裸の生豆にした状態では
焙煎には適しても、タネ植えとしては適さないどころか
「発芽しない」
と言ってもいいくらいです。
種皮を脱穀した生豆は、もう種子ではないのです。
コーヒーを栽培する種子は、“パーチメント豆” が大原則なのです。
沖縄でも、これを説明しても
右から左に聞いている方が時々いて
「コーヒーのタネ植えをしたけど発芽しない」
という問い合わせが後日メールで届き、
どうやってタネ植えをしたのか、どこからタネを収取したのかなど
よくよく聞いてみると
「生豆でタネ植えした」
ことが発芽しない原因だった、
ということが、ついこの前もありました。

種子が覚醒する条件は、植物の種類によって違いますが、
多くの場合、その植物の生育様式に対応しています。
寒い冬を避けて春に発芽する種子、
沖縄でのコーヒーはこのパターンですが、
一定時間低温が続くと休眠から醒めて、
発芽の準備に入るのです。
また、乾期が長く続く厳しい環境に生えるような植物は、
土壌湿度によって休眠したり覚醒したりするようです。


もう少し具体的に
コーヒーの種子の発芽のプロセスを考えてみましょう。

種子には胚があり、発芽とは胚が成長を始めることをいいます。
植物学的には、最初に幼根が種子を破って出てくる時点のことを
「発芽した」
と考えるようですから、
私たちが通常考える、地上に芽が出てきた状態は
“発芽”ではないようです。

胚が成長をするということは、
厳密には胚を作っている個々の細胞が大きくなることであり、
また、新しい細胞が作られ、
要するに新陳代謝が促されるのですが、
そのために、水分と養分の補給が必要なのです。
コーヒーの種子内の硬内胚乳、
セルロース(炭水化物)、タンパク質(粒状アリューロン)、
糖などを分解するのは酵素ですが、
乾燥した種子のままでは酵素は働くことが出来ません。
酵素が働くには水分がなくてはならないのです。
そのため、種子を水に漬けるか、
タネ植え後に水やりをしてあげないといけないのです。
それでも、水やりが多すぎても種子がカビたり
腐ったりすることがあるので、
たくさんあげればいいのではなく、
乾燥させない程度に水が必要だということです。

乾燥したコーヒーの種子を水に漬けると、すぐに吸水が始まります。
これは、タンパク質(粒状アリューロン)など
高分子貯蔵物質が水を吸って膨潤していくからです。

その吸水はPHの影響を受けます。
コーヒーの種子は中性より酸性の方が早くかつ効果的に吸水します。
しかも栄養成分を分解する酵素の最適PH値も、
どうも酸性側にあるようで、
そのため発芽以降の生育過程でも
酸性土壌の方が適しているといえそうです。

休眠から醒めた種子が最初に始めるのは、吸水・膨張と
貯蔵物質(杯の栄養分)の急速な代謝で、
貯蔵物質は、そのための原料であり、
同時にエネルギー源にもなるのです。

温度条件的には、
沖縄では3月下旬の20℃あたりになった頃に発芽するのですが、
沖縄では春だけでなく、その後秋まで発芽します。
10月にタネ植えすると、
11月から初春までは休眠に入り発芽はしません。
4月頃に発芽してきます。
生前、和宇慶朝伝先生が
「発芽まで9か月かかったことがある」
と言われたのは、
「8月頃タネ植えして、発芽したのが翌春4月だった」
という意味だったのだと思います。
コーヒーの種子の夏以降のタネ植えでは、
「秋の暖かい時期に、春と間違えて発芽してしまった」
という失敗が起こらないように、
寒い冬を一度経験してから発芽するような仕組みが
組み込まれているということで、
ますますコーヒーの種子の素晴らしさに感嘆してしまいます。

冬の冷たい土の中で、養分を蓄えて発芽のときをひたすら待ち、
「暖かい」という感覚だけではGOサインを出さない、
成長や子孫繁栄という目標に向けて前進するには、
この慎重さと用心深さが大事なんだと、
コーヒーの種子から教えられているような気がします。
「寒い時期を経験してこそ、芽生えがある」
という人生訓的な教えは、
「志さえ失わなければ、
 困難や問題はすべて新たな発展の契機として生かすことができる」

といわれた故・松下幸之助さんのことばのようです。
そう考えると、
沖縄でのコーヒーの種蒔きは
「初春から梅雨」
までがBESTのようです。

胚の中心軸が伸びて、分裂組織が細胞分裂を始め、
その結果、先端へと新しい根、あるいは茎と葉が伸びて行きます。

コーヒーノキの芽生えは、
子葉が2枚の「双子葉型」で
子葉が種皮をかぶったまま地上に出てくる「地上子葉性」
という形態をとり、
種皮を落としてから、子葉が広がって緑色になり、光合成を始めます。
発芽に際しては、光はそれほど重要ではありません。
光が必要なのは、成長して伸びた茎や葉が光合成をするためであって、
発芽前は光は不要で、遮光したところでも元気に発芽します。

土壌は、発芽に必要な水分や生育後の栄養の供給源になりますが、
同時に、種子から生長をし始めた芽生えが
最初にくぐり抜けなくてはいけない障害物でもあるのです。
茎頂(シュートの先端)や根端(根の先端)は、
細胞壁が薄くて軟らかくデリケートな分裂組織を守りながら
土を突き抜けるしくみを持っていますが、
種蒔きの土は、軟らかく水はけがよいものがBESTです。
コーヒーの種子にも、そのくらいの配慮をしてあげないとダメですよね。
南米の中規模以上のコーヒー農園では、
川砂に液肥を使って種蒔きをしているようです。

コーヒーの赤ちゃんが土の中から顔を出したときに、
モヤシのような形状になっています。
言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、
分裂組織の少し下で
茎が180度近く曲がって「逆Uの字」形になっています。
その部分の組織もやや硬くなっているので、
この曲がり方は構造力学的には
屈曲点(逆Uの字)部分の強度があるようです。

種子から発芽して、茎が伸びるにしたがい
強度がある屈曲点の部分が先頭になって土を押しのけ、
屈曲点が地表からある程度上に出てから、
分裂組織がある部分が土から離れ、屈曲が解除されて、
最終的には分裂組織が先端に来るようになる。
これを私たちは「発芽」と思っているわけです。

子葉の間にある分裂組織から新しい双葉が出てくるまでは、
芽生えの生活は子葉が支えています。

発芽というと、地上部分の子葉や双葉など、
目に見える部分ばかり気持ちがいってしまいますが、
地中では、芽と同じく、
成長しようと頑張っているのが“根”です。

根は土の中で見えませんから、地味な存在ですが、
コーヒーでいえば地上の樹形をしっかりと支え、
さらに成長に必要な水分や養分を土の中から吸収するという
重要な役割を果たしています。
歌舞伎で後見が舞台に現れるときに着る、
黒装束・黒頭巾姿の黒衣(くろご)や裏方などの
「縁の下の力持ち」
が根の仕事なのです。

私は今までに何度も何度も
数えきれないくらいの失敗を重ねているので
とてもエラソーなことは言えないのですが、
「鉢やポリポットの植え替え」
は面倒でも、してあげないと
根が窮屈になって、栄養を吸収できなくなるだけでなく、
鉢の内側を根がグルグルと巻くようになってしまうのです。

コーヒーの苗木111202.JPG
 コーヒー山にあるコーヒー苗木のほんの一部

コーヒー山をお借り出来るまで、数年がかりで
本島の読谷村以北の休耕地を探していましたが、
面積や期間などが折り合わずに数年が経過していたのです。
引っ越し前の南風原町の自宅庭に2,000本以上のコーヒー苗木を
ブラジルから沖縄に移住されたアキファームの曽木明子さんが
丹念に見られていた頃のことです。
その間に移植を待つ、鉢に入ったコーヒー苗木はすくすくと成長していて、
年末ジャンボ宝くじの1等前後賞の当選より
(といっても、私の今までの最高当選は10万円ですがもうやだ〜(悲しい顔)
運がよくコーヒー山をお借りできたときには、
鉢の中のコーヒー苗木の根はグルグル巻きだったのです。
当時は伐採と移植を同時に行っていたこともあり、
また穴の径も鉢が入るギリギリの大きさしか掘らずに
苗木を植えましたから、
根が伸び放題で、おまけに
窮屈なところに押し込まれたコーヒーには相当なストレスになり、
その後、南側の苗木は
葉や実を全部落として丸坊主になってしまいました。
それらは掘り返して我が家に持ち帰り
庭で再生させていますが、だいぶ回復してきました。

根が伸び伸びと成長して、
たくさんの養分を吸収してこそ、
花が咲いて実もつけるのですから
「根あってこその花や実」
を、私は痛烈に実感しているのです。

コーヒーノキは、発芽後、初めの根が太く地中深く伸びます。
これを“直根”とよんでいます。
この直根は、地中深く伸びて地上の樹形を支えるとともに、
出来るだけ深く根を伸ばすことで、
より多くの水分や養分を地中から吸収する“要(かなめ)”になります。

直根は、地上が乾期になって水分が少なくなっても
地中から補給する役目も果たしているのです。
沖縄の土壌学の権威で県の前農水部長・大城喜信先生が
地下1mに点滴潅水(かんすい)という、
チューブに小さな穴を開けて、水を微量に浸み出させ、
植物の根が水を求めて地中深く伸びる、
という農法を提唱されていましたが、
直根は、この自然バージョンです。

南米では苗木移植時に、
ナタで直根を切り落としてしまうところがあるのですが、
植物は無駄な葉は1枚でも出さないのですから、
私は直根を切るべきではない、
と考えています。


発芽の画像は依然ずいぶん撮影したのですが、
画像の整理が悪いので、後日探しながら発見次第
追加でUPする予定です。
いつもながら長い文で読みにくくてすみません。

(次回に続く)
posted by COFFEE CHERRY at 18:14| 沖縄 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | コーヒーの品質を高めるための考え方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
頂いた3種の種。神戸の家の庭先に植えています。果たして芽がでますやら。
Posted by ボーンチャイナ at 2011年12月03日 17:46
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