2012年03月31日

半栽培を考える

コーヒー山では、リュウキュウイノシシがあちこち掘り返していて
まるで耕耘機が暴走したような光景が目立っています。

沖縄本島は昨年3度の台風襲来があり、
コーヒー山でも、森林内では空がよく見えないほどの
鬱蒼(うっそう)とした森林だったのが、
台風でシイの木が枝葉をずいぶん飛ばされて、
イノシシの大好物のドングリが激減してしまったことで
ミミズを捕食するためにあちこち掘り返しているのです。

ヤンバルオオフトミミズ120319.JPG
 ふつうのシマミミズやフトミミズを超越して
 ヘビみたいな巨大なヤンバルオオフトミミズ。
 リュウキュウイノシシは、好物のドングリが激減したので
 この巨大ミミズを捕食するために、
 あちこち掘り返しているのです。



台風の影響でコーヒー山では上空を見上げても、
空が見えるようになってしまいました。
ということは、陽が入ることを意味しています。
やんばるは新緑が目立ってきましたが、
元通りの、鬱蒼(うっそう)とした森林に戻るには
まだ1〜2年はかかりそうです。

イノシシがあちこち掘り返してもコーヒーには無関心、
というよりコーヒーは避けています。
イノシシはバナナの株やテッポウユリの球根などは大好きですが、
コーヒーのカフェインが嫌いなのです。
植物のアルカロイドは、多くが他の生物に対して毒性があります。
これは植物が自己防衛のために作り出した物質なんですね。

チョコレートのテオブロミンとか、
コーヒーやお茶のカフェインのようなアルカロイド類は
人類は数千年も前から、熱帯雨林で
様々なアルカロイドに富んだ熱帯植物を食べてきた歴史があり、
人類は体内で簡単に解毒できるようになっています。
カフェインは人間にとっては神経を良い意味で刺激することで
リラックス効果をもたらすのですが、
イノシシにとってはアルカロイドは“毒”というわけです。

イノシシが掘り返す事態はコーヒー山だけでなく、
やんばる全体に及んでいます。

「やんばる(山原)」
とは、
「山々が連なり森の広がる地域」
を意味する言葉で、
ブナ科のスダジイ(沖縄ではイタジイ)やオキナワウラジロガシが優先する
常緑の照葉樹林の森で、
自然性の高い亜熱帯性常緑広葉樹林が広がり、
多様性に富む生物相を保持しています。
そのため、コーヒー山でも固有種とよく出会うのです。


森で木が倒れると、森に光が入るようになります。
光が入ることによって、これまで高い木の下で成長できなかった種類の植物や
照葉樹たちが先を争って成長するようになり、
太陽の光をめぐる競争が激化し、そこには新しい形の生態系が生まれます。

これも長い時間の経過とともに、また元のような高い照葉樹に覆われ、
このプロセスを
「遷移(せんい)」
といい、
遷移の結果至った安定した生態系を
「極相」
といいます。

森では永遠に極相が保たれることはなく、
攪乱を受けて、遷移になり、極相に至ることを繰り返しているのです。

広い自然界の中では、どこもがすべて極相ではなく、
あるエリアは極相を保ち、あるエリアは遷移の初期段階、
またあるエリアでは遷移の中期段階、
といったような状態になっています。
極相エリアと遷移エリアでは、それぞれの段階ごとに生態系が違いますが、
広い自然界では、全体として生物多様性を維持している、
ということになります。

イノシシがミミズ捕食のために掘り返したところや
陽が射し込む森林を見ていても、
遷移の中にいる私が、森と共生しているような一体感が得られて
それはそれで趣があり、またすべてがいとおしく、
作業も一層楽しく感じられます。

コーヒー山20120330.JPG
 標高約300mのコーヒー山は照葉樹林に覆われています。
 台風などで倒壊してしまう木もあります。
 コーヒーは森林内に定植していますが、
 光をどの程度入れたらいいのかを試行錯誤しています。



「固有種の多い、やんばるの自然を守ろう」
という
「環境保全」
を考える方々がいるように、もちろんその趣旨には私も同感です。

環境保全の概念では
「人間が手をつけていない、手つかずの自然こそが最も望むべき自然の姿」
とか
「鬱蒼(うっそう)とした森林形態が、ひとつの理想的な自然な姿」
と考えがちで、
実際に少し前の生態学では、
「人間の活動は生態系を壊す」
という位置づけをされていました。
人間のかかわりは自然界には否定的だというとらえ方をされていたわけです。

ところが近年の生態系では、特に保全生態系の分野では、
「適度な人間とのかかわりがあった方が、むしろ生物多様性に寄与することが多い」
というとらえ方になっていて、
人間と自然との関係では、
 ・ 野生なのか栽培なのか
 ・ 自然なのか人工なのか

といった二分法を考えがちですが
「攪乱の程度によっては自然を壊さず、むしろ保全する」
という考え方が出てきているのです。

これは私にとって、とても興味深く、また嬉しい考え方でした。
私の森林栽培は、
「在来種の森林の照葉樹は優先して残して、
 低木などを少し伐採してコーヒーを定植する」

というものですから、
「それでも、やんばるの生態系を微妙に変えてしまっている」
という、少しnegativeな気持ちもあったからです。


約35年ごろ前に、
ちょうどコーヒー山が丸裸に伐採された頃ですが、
(コーヒー山はその後放置されて森林が復元しました)
民族植物学者の中尾佐助先生が
「人間が狩猟採集生活から、どうやって農耕に移行したのか、
 移行には“半栽培”段階があったのではないか」

という提起をされました。

「人類がどうやって生物を栽培化していったのか」
という歴史的な関心に基づいた考え方です。

その後、「半栽培」は
「人間と自然との相互関係のあり方を考える概念」
として研究され、
半栽培は以下の3つの類型に分類されているようです。
 ・自然生態系の中から特定の野生種を利用する
 ・畑地の雑草から特定の植物を利用し、保護、栽培する
 ・栽培化されたが、そこから野生化したもの



我が家はやんばるの過疎にあるために、
地デジ難視対策衛星放送といって
要するに衛星で東京の番組やBSチャンネルの一部を視聴しています。
そのため荒天の日はテレビがまったく映らないこともあるし、
台風などの情報も、沖縄の番組が見れないのでネットやラジオで得るしかありません。
先日、BS(TBS)の番組で
地球の誕生を1月1日、現在を12月31日とした1年間のカレンダーを作ったときに、
「生命が誕生したのは何月頃か」
とか
「恐竜が活躍したのはいつごろか」
とか説明されていたのですが、
「人類が誕生したのは12月31日の夜11時37分」
つまり、偏向報道のNHKが紅白歌合戦で
歌手たちが紅白の玉を会場に投げて
「そんなのどっちが勝ったって、どうでもいいよ」
と思っている頃に人類が誕生した、
ということは、
ヒトの誕生は「ゆく年くる年」で
雪が深々と降る寒そうな寺院で除夜の鐘が突かれている頃になるのですが、
自然人類学におけるアフリカ単一起源説、
「地球上のヒトの祖先はアフリカで約20万年前に誕生し、
 その後世界中に伝播していった」

「植物は動けないので、人間が植物を選び、タネを持って旅をすることによって、
 植物もアフリカから地中海沿岸、東アジア、東南アジア、
 アメリカ大陸など地球上に広がっていった」

という説ですが、
それなら人類がいつから植物を栽培するようになったのか?
「地中海あたりで見つかった大麦、小麦を栽培するようになってから」
とか
「中国など東アジアで米や雑穀を栽培するようになってから」
など、またいろいろな説もあり、まだ特定はされていません。

“半栽培”の概念からすると、
やんばるでのコーヒー栽培は、
「コーヒーは野生種ではなくて外来種なんだから“半栽培”ではない」
ということになるのですが、
私の試みは、
「在来種の森林に、外来種のコーヒーを仲間に入れてあげてね」
というもので、
どうしても在来種の方が強いですから
コーヒーの補助を私が行うような栽培管理を心掛けているのです。

沖縄では、
パパイヤ、バンジロウ、アセロラ、島バナナ、イペー、カエンボク、
モクマオウ、ゲットウ、ギンネムなど帰化植物あるいは外来種が多く、
ハイビスカスだって江戸時代前に中国から持ち込まれたものですし、
デイゴも帰化植物なんじゃないかな。
とにかく沖縄は渡来植物が多いのですが、
コーヒーも今は肩身が狭くても、永い時間がかかってもいいから
森の仲間に入れてもらいたいのです。

「コーヒーは自生して、生態系に影響を及ぼすのでは?」
という声もありますが、
少なくともコーヒー山では現段階では人が介在しないと生育出来ませんから
生態系に悪影響を及ぼすことはありません。
特に発芽から苗木移植の時期までは、甲斐甲斐しくお手伝いが必要です。
コーヒーが歌舞伎役者であれば、
私は黒衣(くろご)のような相互関係が必要なのです。

定植3年目のコーヒー20120330.JPG
 コーヒー山ではなく、自宅に隣接するバナナ園の北東側に植えたコーヒーです。
 3年目を迎え、ついに花芽が出てきました。
 コーヒー山の木たちも一部花芽が出てきています。
 このバナナ園は昨年8月の45時間40m以上の暴風雨にさらされた時は
 このコーヒーの木も塩害を心配しましたが(海まで直線距離で約1kmと近いため)
 その後の雨で塩も流されたようで、元気を取り戻してきました。



アグロフォレストリー(Agroforestry)は
「農業(Aguriculture)」と「林業(Forestry)」を合わせた造語で
「森林破壊をせず、森を作りながら、作物を生産する農業」
で、
「森をつくる農業」
といわれています。

また、パーマカルチャー(Permaculture)は、
「永続的、永久的(permanent)」と「文化(culture)」を合わせた合成語で
農園にさまざまな樹木や果樹などを植えて
野菜やハーブを栽培したり、家畜なども組み合わせた
「永続的な農業」と同時に「永続的な文化」といった意味合いの
自然農業的な考え方ですが
アグロフォレストリー(Agroforestry)とパーマカルチャー(Permaculture)は
広義では同じようなものでしょう。

そういう意味ではコーヒー山もアグロフォレストリー(Agroforestry)、
あるいはパーマカルチャー(Permaculture)に入るのだと思いますが
最近はあまりそういった難義な定義にとらわれずに
私は
コーヒーだけでなく、多くの果樹も植えて
「森と共生・共存する農業」
「人間が自然と共生共存しあう農業」
を目指すようになりました。

中南米の中小零細規模のコーヒー農園では
多くの果樹を植えるアグロフォレストリーをしていると聞いています。
「多くの果樹の誘因効果で、
 生物多様性は増加する可能性こそあれ、減少することはない」

というとらえ方をされているようですが、
私もまったく同感なので、
自信を持って微力前進していきたいと考えています。

posted by COFFEE CHERRY at 13:30| 沖縄 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | コーヒーの品質を高めるための考え方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
いつも楽しみに拝見させて頂いております。久しぶりの更新でしたので、何かあったかのかと心配していました。

私は、京都在住の沖縄人です。珈琲に興味がありいろいろ調べている間に辿り着き、岡田さんの努力には、いつも刺激を受けております。

これからも大変だと思いますが、頑張って下さい。
Posted by まるあい at 2012年04月01日 00:52
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