2012年04月21日

タゴールのボライから光量を考える

やがて若芽は、すべての生物に先立って大木に成長し、
両手を合わすようにして、太陽にこう語りかけるのだった。
「私は存在しなくてはならないし、生きなければならないのだ。
私は孤独な永遠の旅人である。
陽が照ろうが翳(かげ)ろうが、昼だろうが夜だろうが、
次々に襲いかかる死をのりこえ、
無限の生命が開花する聖地に向かってひたすら巡礼を続ける旅人なのだ」
このような樹木の呟(つぶや)きは、
今でも林や山や村のいたるところで聞かれるのだ。
梢から葉から大地の生命の声は響いてくる。
「私は存在しなくてはならない。私はこの地上で生きなければならないのだ」
宇宙の声明を無言のうちに支えているこの大樹は、
絶えることなく天上から甘露(かんろ)を絞りとっている。
大地の甘露の貯蔵庫の中に、
生命の輝き、潤(うるお)い、美しさを貯えている。
そして不安に充ちた生命の言葉を天空に向かって叫び続ける。
「私は生きるんだ」
と。
この宇宙の生命の呟きを、
なぜかボライは、自分の血の中に聞くことが出来るのだった。


以上は、タゴールの「ボライ」という短編の一部です。

タゴールとはラビーンドラナート・タゴール、
アジアで初めてノーベル文学賞を受賞した近代インドの最高峰の詩人、思想家です。
インド国歌やバングラデシュ国歌の作詞・作曲者でもあり、
また日本人の自然を愛する美意識を高く評価して岡倉天心らとの親交があり、
日本には5回も訪日されています。

「ボライ」という短編は、簡単にいえば
草木の栄枯盛衰を観て、植物から知ることの大切さを学び、
愛を持つことによって人間愛を養いなさい、同時に人生を学びなさい、
という短編小説です。

ボライというのは、甥(おい)の名前で兄の子ですが、
義姉が亡くなり、兄は失意のあまり英国へ留学したことで、
ボライが赤ん坊の頃から預かっていたのです。
ボライは生まれつき、植物の旋律を感じ取れる特殊な繊細な才能を持っていました。
ボライはどんな植物にも敬意を表し、愛情を持って接し、細々と観察しするのですが、
やがて歩道上に生えてきたシムールの木を、
自身のもうひとつの命のごとく大切に丹精込めて育てるようになります。
ボライは英国から突然帰国した父から英国留学を命じられるのですが、
シムールの木がジャマでいまいましかった“私”が
シムールの木を切り倒してしまった直後に
ボライから「シムールの木の写真を送ってほしい」という手紙が届く、
という哀しい結末で終わる短編小説です。

牧野財士氏の和訳もすばらしく、
冒頭に転載した文面は何度も何度も暗記するくらい読み返してしまいました。


「ボライ」を読んで、コーヒー山を想うと、判ってきたことがあります。

「過疎の小学校に、都会の過保護な生徒が転校してくると、すぐには溶け込めない」
「日本の、ふつうの公立小学校に、日本語の話せない外国人が転校してきた」
という情景を思い描いたとき、
コーヒー山に定植されたコーヒー苗木たちが
過酷な試練を乗り越えようと、日々奮闘しているのが判ってきたのです。

在来種の群雄割拠のやんばるの森林に、
デリケートで繊細な外来種のコーヒーが入ってきても、
すぐには仲間に入れてもらえないどころか、
在来種の植物たちからすると、
むしろ淘汰というか排除しようとするはずです。

コーヒー山の在来種のフィトンチッドやアレロパシーなどが
コーヒーの生育自体に若干阻害の影響を与えているはずですから。

私の
「健康に生育した木は、元気な実をつけるはずだ」
という考えはまったく変わりませんが
「森林栽培は、路地栽培より倍以上の時間がかかる」
「たとえ時間がかかっても森林で栽培した方が良い実をつけるはず」
ということが、
今回「ボライ」を読んだことで、
目から鱗(うろこ)が落ちたように思えたのです。

コーヒー山では生育速度は路地栽培当時と比較すると確かに遅いのですが、
ひと冬というか1シーズンをコーヒー山で経験したコーヒー苗木たちや移植した木は
路地栽培当時より元気といえます。

さて、そうなると、今度は「光量」です。
スダジイやイジュなどの、陽を浴びたい中高木は森林の外側を覆いますから
森林内の中低木の草木は木陰が多くなります。

頭上の樹勢120419-1.JPG
 昨年8月の、本島全体が45時間暴風雨圏にさらされた台風で
 やんばるの森林もすっかり疲弊してしまったのですが、
 その後、雨量が多く、最近のやんばるは新緑がまぶしくなってきました。
 画像はコーヒー山の中から頭上を見上げたところです。
 「光量の適度がどのくらいか」
 が新たな悩みのタネです。


今までは
「コーヒーは陰樹」
なので、
「森林内の木陰で、木漏れ日が入るならOK」
とアバウトに考えていたのですが、
「コーヒーを植える環境に適した在来種の中高木を植えて、
 コーヒーと伴植する樹木をシェードツリーとする」

というのが、コーヒーとシェードツリーの考え方ですから、
現在のコーヒー山のように、
「在来種の森林内の中低木を一部伐採して、
 そこにコーヒーを定植し、自然な木陰の中でコーヒーを栽培する」

のに、
シェードの役割は、
「適度な日陰を作ることで、強い日照からコーヒーノキを守る」
ということですから、
この“適度”というのが微妙ですよね。

ブルーベリー栽培の指導者・西園寺さんから、3月に
「もっと光量を入れた方がいいんじゃないか」
というアドバイスをいただき、
「適度とは具体的にどの程度をいうのか」
というのが、今度は気になるようになりました。

「光量が少なければ光合成がしにくくなり不健康化、光量が多ければ葉焼けして短命化」
ということになるわけです。

頭上の樹勢120419-2.JPG
 ここもコーヒー山です。
 私としては、ここは光が入りすぎと思うのですが…。
 コーヒーは発芽以降、幼苗、苗木時代の環境でも
 コーヒー山に定植後に微妙に変化を見せてしまうので、
 その点ではなかなかデリケートですね。
 赤ちゃんの育児のように、コーヒーは初期は
 特に人の介在が不可欠ですが、
 主役はコーヒーで、私はあくまで黒衣なのです。


植物は自分が生きて行くためのエネルギーを、
日照による光合成という方法で自ら作り出しているのですが、
松のように、芽生えからより多くの日照を浴びて、
他の樹木よりも早く高く生長することで日照を独占して、
森林内で少しでも優位に立ちたいという「陽樹」に対し、
水分や栄養分が豊富で
森林内の弱々しい光の中でも着実に成長して、
いつか明るい光を浴びる日を夢見て
虎視眈々とCHANCEを伺う「陰樹」があり、
コーヒーの木は、クスノキ、カシノキ、ブナ、シイ、
タブ、ツガなどとともに後者の「陰樹」になります。

陽樹が成長して繁茂すると、その木の下は当然日陰になるので、
松などの次世代の芽生えは光が不足するためこの陽樹の下では育たずに、
薄暗い光量下でも幼苗が育つ陰樹が育ち、
陽樹林は陰樹林へと変遷(へんせん)していくのです。

アバウトにいえば、
「日陰であっても成長可能なのが陰樹」
という意味で、
「陰樹だから光が少ない方が良い」
というわけではないし、
「光量も多ければいいのではない」
のです。

濃霧のコーヒー山120421.JPG
 一昨日は午後から天気が崩れました。
 帰る途中に観たコーヒー山です。



コーヒーの実の果肉は甘いのですが、
この糖度と品質の関係も少し考えてみましょう。
横浜の中村さんからこのお話をいただき、私も気になったのです。

糖度は
「日照時間に比例する」
といわれますが、
糖度が上がるためには、光だけでなく、
“寒さ”という厳しさも必要になります。

コーヒーが
「昼夜の温度差があるほど良い品質の実が出来る」
といわれているのは、そのためですが、同時に
「昼夜の温度差があるほど、果肉は美味しい甘さになる」
と考えられます。

光合成を行わない夜間の温度が低いと、
寒さに耐えるために、消費する炭水化物の量が少なくし、
自らの樹液濃度を高める、その濃縮作用が、
果肉の美味しい甘さを作り出すのではないかと思うからです。

そう考えると、
「森林栽培は路地栽培より倍の時間がかかるが、
 時間がかかることで日照時間の積算量自体は多くなる」

という、
「時間をかけて育てる」
ことは、あながち間違いではないように思います。
問題は光量のバランス調整だと思います。

ヤンバルクイナ120420-1.JPG
 コーヒー山の地主によると、
 国の天然記念物ヤンバルクイナは
 10年前は「月に数回見かけるくらい」だったのが、
 最近は「見ない日は無い。多い時は1日に何羽も見る」と言って
 「増えすぎて、もう保護なんか必要ないんじゃないの」
 と言われています。
 その正否はともかく、我が家の庭や、バナナ園などにも多数出没しています。
 この画像は我が家から20mくらいのところで昨日撮影しました。
 これは模様が綺麗なのでオスです。


ヤンバルクイナ120420-2.JPG
 彼らを見て「あっ」と思うと、ほんの数秒で、
 こうして草地に入ってしまうので、
 出会いは多いのですが、なかなか撮影出来ないのです。
 一度草地に入ってしまうと、そこからは二度と出てきません。
 彼らを多く見れるのは4〜7月、特に4月中旬〜6月は、
 雛を連れ歩く時期でもあり、エサを探しているのか
 朝でも日中でも夕方でも、よく出てきます。


現状では
「沖縄でのコーヒー栽培では、光量はこのくらい必要」
というのは結論を出せずに、
暗中模索から抜け出せないのですが、
「原産地の栽培環境を再現させたい」
という私の考えでは、
コーヒー山は、まさに理想的な栽培環境だと改めて思い直しています。

沖縄のコーヒー栽培では、標高が最も高く、昼夜の寒暖差も激しく、
冬の寒さも沖縄随一ですから、コーヒー山の環境に時間がかかっても馴染めれば
きっと良い実を付けるはずだと確信しています。


バナナ園のコーヒーの開花.JPG
 自宅に隣接するバナナ園の東側に植えたコーヒー苗木がようやく開花しました。
 昨年の台風では、かなり潮を浴びて、放任していましたが、
 どうやら潮にも耐性があるようですね。


posted by COFFEE CHERRY at 18:53| 沖縄 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | コーヒーの品質を高めるための考え方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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